「Soul Queen Restaurant」&シカゴの落日


マウント・モライア・バプティスト教会を後にしたのは午後2時半。
その後、グロリアさんの紹介で、
私達は「Soul Queen Restaurant」に行くことになった。

途中グロリアさんのお宅に寄り、二人の息子さんとお会いする。
ハヴィアー君とマリオ君は、とても礼儀正しい好青年。
その上スマートでスーツがよく似合っている。
彼らは午前中、教会へ行っていたらしい。
こちらでは、教会へ行く時には正装することになっているので、
少年の頃から、きちんとネクタイをしてスーツを着ることが身についている。

日本では、中学生や高校生の男の子が正装している姿をほとんど見かけない。
だから彼らの姿が、私にはとても新鮮でまぶしく映るのだ。
装いによって気持ちがルーズにもなり、引き締まりもする。
身なりを整えることがいかに大切なことであるか、
その時考えさせられた。

「Soul Queen」は、ビュッフェ・スタイルのソウル・フード・レストランで、
オーナーの女性のニック・ネームがそのままお店の名前になっている。
「ソウル・フード」とは、
アメリカ南部に住んでいた黒人達(アフリカン・アメリカン)の伝統的な家庭料理のこと。
辛い過去の歴史において、
白人の元で働いていた黒人達は白人が残した料理や食材を使い、
いかにおいしく食べるか、創意工夫を凝らしながら料理を作った。
よって「ソウル・フード」には、彼らの「生」に対する切なる思い、
そして生活の知恵がたくさん詰まっているのだ。

店内に入ると、
頭にうさぎの耳のようなカチューシャを付けたウェイトレスが
にこやかに応対してくれた。
私達が案内されたテーブルの近くの壁には、
モハメド・アリの大きな写真がかかっている。
その横にはキング牧師の写真。
二人とも黒人社会におけるヒーローとも言うべき存在。
どちらも同じ女性が隣りに写っていて、
その女性がこちらのオーナーの「ソウル・クイーン」であると
グロリアさんが教えてくださった。
オーナーが有名人と一緒に記念撮影をし、それが店内に数多く飾られている。
クリントン元大統領の写真もあったのでビックリした。

お店の雰囲気は家庭的で、居心地が良く、
まるで1970年代にタイム・スリップしたみたいだ。
ここにいると、なぜか自分が小学生の頃住んでいた「清瀬」という街の様子や
幼なじみの顔が浮かんできて、何とも言えない懐かしさがこみあげてくる。
このお店は常連さん達にとって、第二の「Sweet Home」なのかもしれない。

グロリアさんとハヴィアー君、マリオ君、私の4人で先にお料理を取りに行った。
私にとっては初めての「ソウル・フード」。
好奇心も手伝って、
大きなお皿に盛られている様々な種類のお料理を食い入るように見てしまった。
湯気のあがったホカホカのお料理はどれもおいしそう!
グロリアさんがお料理の説明をしてくださった。
「今日は『チトリン』(豚などの腸を煮こんだ料理)はないみたい・・・」
・・・彼女の言葉にがっかりした。
B.B.キングの自叙伝に「チトリン」のことが書いてあったからだ。
一度は食べてみたかった。

お肉は口の中で溶ろけるぐらい柔らかく煮込まれていて、
味も濃すぎず、日本人の好みにも合っている。
「カラードグリーン」と呼ばれる菜っ葉の炒め煮もクセがなく、
どこか日本的な味がする。
フライド・チキンはカラッと揚げられていて、脂がのっていた。
「ソウル・フード」は、
日本でいうところの「おふくろの味」に相当するものなのかもしれない。
素朴だけど、あったかいお母さんの味。
「元気を出して!」という思いが込められているような気がした。

お料理をおいしくいただきながら、
グロリアさんと子供の教育に関してお話をする。
ハヴィアー君とマリオ君は、洗濯や食器洗いは全部自分達でするそうだ。
お弁当まで自分達で作るということなので、これには感動した。
マナーの面に関しても、彼女のしつけは行き届いている。
思わず暗澹たる日本の育児状況を考えてしまった。
最近日本では、我慢や自立のできない子供が増えている。
グロリアさんからためになるお話をたくさん聞かせていただいて、
私としても非常に勉強になった。

帰り際、「ソウル・クイーン」が人なつっこい笑顔を浮かべながら、
レジのところに立っていた。
彼女はとても親しみ深く話してくれて、初めて会ったという気がしない。
「また来よう!」「また来たい!」と思いながらお店を出た。
このような素晴らしいお店に誘っていただき、
グロリアさんには心から感謝している。

ダウンタウンに戻る時、
菊田さんが「New Regal Theater」の前まで車をまわしてくださった。
B.B.キングがショウを行ったオリジナルの「リーガル・シアター」は、
1928年にオープンし、
「East 47th St.」と「South Parkway」が交差するあたりにあった。
ところが1971年に不審火に合い、壊滅的なダメージを受けて、
2年後の73年にやむなく取り壊されたらしい。

「1641 East 79th St.」にあるこのシアターは、
1980年代の後半に「New Regal Theater」という名前が付けられ、
「リーガル・シアター」を彷彿とさせるシアターとしてリニューアルされたらしいが、
ショッキングなことにシアターの壁には「FOR SALE」の張り紙がしてあった。
重要文化材並みの建物が消えてしまわないよう、祈るばかりだ。

「ジョン・ハンコック・センター」(100階建て/高さ343m)に着いたのは夕方だったが、
まだ外は明るく太陽が燦燦と輝いていた。
私達はセンターの展望階となっている94階へと向かう。
アメリカで一番高いビル、すなわち世界で二番目に高いビルは
シカゴの「シアーズ・タワー」(110階建て/高さ443m)だが、
ジョン・ハンコック・センターの展望室からの眺めの方が素晴らしいと
菊田さんが教えてくださった。
ちなみに現在、世界で最も高いビルは、
クアラルンプールの「ペトロナス・ツインタワー」(450m)である。

こんなに高いビルに登るのは初めてのことだったので、
グングン上がっていくエレベーターの中で私はワクワクしていた。
40秒程で94階に到着し、辺りを見回す。
・・・あまりの絶景に言葉が出なかった。
地平線の先まで見えるような、雄大な景色が360度に渡って広がっている。
グロリアさん家族もこの展望階に来るのは初めてらしく、とても喜んでいた。

南の方角を見るとミシガン湖とシカゴの摩天楼が一望でき、
西方には、オヘア国際空港から飛行機が離陸していく様子がうかがえる。
西の方角以外は全てミシガン湖が海のようにシカゴの街を取り囲んでいた。

あと1時間ぐらいで陽が沈む。
真正面に夕日を見ながら、私はグロリアさんといろいろな話をした。
彼女の心がより近くに感じられ、
私はとても感慨深い楽しい時間を過ごすことができた。

徐々にシカゴの街に灯りがともり始め、
キラキラと輝く光の直線があちらこちらにできていく。
最後のシカゴでの夜。
明日の朝には日本に帰らなくてはならない。
ロマンチックな光景を見ながらシカゴでの夢のような日々を振り返った。

午後8時ごろ宿泊先のホテルの前で、
私達は菊田さんやグロリアさん家族に、
言葉には言い尽くせないほどの感謝の想いを胸にお礼を申し上げ、
再会を期して握手を交わした。
私は「是非日本に来てください。」と皆さんに言いながらも、
心の中で、またいつか必ずシカゴに来ようと決めていた。

<04・6・18>

Soul Queen Restaurant

Soul Food

Gloria with her sons

with "Soul Queen"

New Regal Theater

John Hancock Center